取引先や競合の有価証券報告書は、AIで読み比べる。頼み方の文例つきの手順
· 投資の教科書 編集部

この記事で手に入るもの
- 有価証券報告書のどこに「社長が知りたいこと」が書いてあるか
- EDINET(金融庁の開示サイト)で、無料で探して保存する手順
- 2社以上をAIに読み比べさせる、そのまま使える頼み方の文例4つ
- AIの読み違いを防ぐ、原本での確かめ方
結論
- 有価証券報告書は期末から3か月以内に出る法定の報告書で、決算短信にはない「事業等のリスク」「従業員の状況」「セグメント情報」などがくわしく載っています
- EDINETの書類簡易検索で、会社名と書類種別を入れれば登録なし・無料で手に入ります
- 2〜3社分のPDFをAIに渡して「表にして」「ページを添えて」と頼み、期間・連結か単体か・単位をそろえて、大事な数字だけは原本で確かめます
上場している取引先や競合のことは、決算の数字だけでなく「何を危ないと思っているか」「社員は何人で、平均の給料はいくらか」「どの事業でもうけているか」まで、誰でも無料で読めます。
それが有価証券報告書(略して「有報」)です。
ただ、有報は100ページを超えることも多く、2社、3社と読み比べるのは大変です。そこで、読み比べはAIに任せましょう。 PDFを2つ渡して頼み方を貼るだけで、「A社とB社はどこが違うか」が表になって返ってきます。
有価証券報告書とは
有価証券報告書は、金融商品取引法という法律で、上場企業などに提出が義務づけられている報告書です。
- 提出の期限:事業年度が終わってから3か月以内(3月決算なら、たいてい6月末まで)
- 提出先:金融庁(電子開示システム「EDINET」で誰でも読める)
- 閲覧できる期間:法律で決められた縦覧(じゅうらん=公開して見せること)の期間は5年
決算短信とのちがい
| 決算短信 | 有価証券報告書 | |
|---|---|---|
| 決まり | 証券取引所のルール | 法律(金融商品取引法) |
| 出る時期 | 期末から45日以内が目安 | 期末から3か月以内 |
| 中身 | 数字の速報が中心 | 数字に加えて、リスク・人・事業・役員・設備などをくわしく |
| 向いている使い方 | 「今期どうだったか」を早く知る | 「この会社はどんな会社か」を深く知る、他社と比べる |
なお、2024年4月から四半期報告書はなくなり、期の途中では「半期報告書」が出るようになりました。会社の中身をまとめて比べるなら、年に1回の有報がいちばん向いています。
有報のどこに何が書いてあるか
有報の本体は「第一部 企業情報」です。社長が読み比べに使いやすいのは、次の場所です。
| 場所(見出し) | 書いてあること | 読み比べで見えること |
|---|---|---|
| 第1 企業の概況 > 従業員の状況 | 従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与など。2023年3月期からは女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女の賃金の差も(公表している会社) | 人の厚み、給料の水準、採用で競うときの相手の条件 |
| 第2 事業の状況 > 経営方針、経営環境及び対処すべき課題 等 | 会社が考える方針と課題 | 次に何に力を入れるか |
| 第2 事業の状況 > サステナビリティに関する考え方及び取組 | 人材育成の方針など(2023年3月期から新設) | 人への投資の考え方 |
| 第2 事業の状況 > 事業等のリスク | 会社自身が「こうなると困る」と考えていること | 仕入れ・為替・人手不足など、相手の弱いところ |
| 第2 事業の状況 > 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 | 数字が増えた・減った理由の説明 | 好調・不調の本当の理由 |
| 第3 設備の状況 | 設備や投資の計画 | どこにお金をかけようとしているか |
| 第4 提出会社の状況 > コーポレート・ガバナンスの状況 | 役員、取締役会の活動など | 誰が意思決定しているか |
| 第5 経理の状況 > 注記のセグメント情報 | 事業ごと(セグメント)の売上・利益、製品やサービスごとの売上、主要な顧客がいればその名前と売上高 | どの事業でもうけているか、大口の売り先はどこか |
特に**「事業等のリスク」と「セグメント情報」**は、決算短信ではくわしくわからないことが多い部分です。ここを2社並べると、同じ業界でも考え方がかなり違うことが見えてきます。
手順1:EDINETで有報を探して保存する
EDINET(エディネット)は、金融庁が運営する開示書類の閲覧サイトです。登録なし・無料で使えます。金融庁の「書類閲覧 操作ガイド」に沿うと、流れは次のとおりです。
- EDINETの閲覧サイト(https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/)を開く
- トップページの「書類簡易検索」で、「提出者/発行者/ファンド/証券コード」の欄に会社名か証券コード(4けた等)を入れる
- **「書類種別」**で有価証券報告書を選ぶ
- **「提出期間」**を選ぶ。初期値は「過去1年」。前の年の分も見たいときは「全期間」などに変える
- 検索ボタンを押すと、提出日時・書類名の一覧が出る
- 一覧の**「PDF表示」**を押すと、PDFで開ける。パソコンに保存しておく
ちょっとしたコツです。
- 会社名は一部だけでも、あいまいでも検索できます。社名が変わった会社は、昔の名前でも探せます
- 書類名をクリックすると、目次つきの画面で中身を読めます
- 「書類詳細検索」を使うと、もっと細かい条件で絞り込めます。「全文検索」では、書類の本文の言葉で探せます
※ 画面の名前や手順は、2026年10月時点で公開されている金融庁の操作ガイドにもとづいています。変わることがあるので、迷ったら操作ガイドを確かめてください。
上場会社なら、日本取引所グループ(JPX)の「東証上場会社情報サービス」で会社を探しても、EDINETに出た有報へたどり着けます。
手順2:PDFをAIに渡す
ChatGPTかClaudeを開いて、保存した2社分のPDFを添付します。
- Claude:1つの会話に20ファイルまで添付でき、PDFは1,000ページまで読めます。ただし100ページを超える部分は、文字だけを読み、図やグラフの見た目は読みません
- ChatGPT:ファイルの添付ができます。無料版は回数などに上限がある場合があります
※ 機能と上限は変わるのが早いので、使う前に各社のサイトで確かめてください(2026年10月時点)。
有報は長いので、1回の会話に入れるのは2〜3社までにしておくと、答えがぶれにくくなります。
→ どちらを使えばいいか迷ったら:ChatGPTとClaude、社長はどっちを使えばいい?(社長のAIの教科書)
有報は誰にでも公開されている資料なので、AIに渡しても問題はありません。
手順3:頼み方を貼り付ける
PDFを添付したら、次の文面をコピーして貼り付けます。【 】の中だけ書き換えてください。
文例1:2社の「会社の姿」を表で並べる
添付した2つのPDFは、【A社】と【B社】の有価証券報告書です。
次の項目を、2社を左右に並べた表にしてください。
- 決算期(いつからいつまでの報告か)
- 連結の売上高と営業利益
- 事業(セグメント)ごとの売上高と利益
- 従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与(提出会社)
- 主要な顧客として名前が出ている会社があれば、その名前と売上高
数字は有価証券報告書に書いてあるものだけを使い、単位(百万円・千円など)も書いてください。
書いていないことは「記載なし」としてください。
それぞれの数字が、何ページの何という見出しにあったかも添えてください。
まず全体をそろえる頼み方です。単位とページを必ず書かせるのがポイントです。有報は表によって単位が「百万円」「千円」とちがうことがあり、ここでAIがまちがえやすいからです。
文例2:「事業等のリスク」を読み比べる
添付した【A社】と【B社】の有価証券報告書の
「事業等のリスク」の部分だけを読んで、比べてください。
1. 両社が共通してあげているリスク
2. A社だけがあげているリスク
3. B社だけがあげているリスク
4. それぞれの会社が、そのリスクにどう備えると書いているか
会社が書いている言葉をなるべくそのまま使い、
あなたの推測を加えるときは「推測」と分かるように書いてください。
同じ業界でも、「原材料の値上がり」を大きく書く会社と、「人手不足」を大きく書く会社があります。相手が何を心配しているかがわかると、営業や交渉の話の入り方が変わります。
文例3:人と給料の条件を比べる
添付した【A社】【B社】【当社が採用で競う相手のC社】の有価証券報告書から、
「従業員の状況」を読んで、次の表を作ってください。
- 従業員数(連結・提出会社)
- 平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与(提出会社)
- 女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女の賃金の差(記載があれば)
- 臨時従業員(パート等)の人数(記載があれば)
最後に、当社(従業員【〇〇】人、平均年齢【〇〇】歳、【業種】)と比べて、
採用や待遇を考えるうえで気づく点を3つ書いてください。
「平均年間給与」は、賞与などを含めた金額として書かれていることが多いです。注記に何を含むかが書いてあるので、自社と比べるときは同じ条件かを確かめてください。
文例4:自社にとっての意味を考える
添付したのは、【競合/仕入先/大口の取引先】である【A社】と【B社】の有価証券報告書です。
当社は【業種・事業の説明を1〜2行】の会社です。
2社の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題」と「設備の状況」を読んで、
次のことを教えてください。
1. 2社がこれから力を入れようとしている分野
2. 2社が縮めたり、見直したりしようとしている分野
3. 当社の事業に関係がありそうな点(3つまで)
4. 当社が次の1か月で確かめておくとよいこと(1つ)
それぞれ、有価証券報告書のどこに書いてあったかを添えてください。
ここまで頼むと、有報が「他社の分厚い報告書」から「自社の次の一手を考える材料」に変わります。
→ 経営判断の壁打ちにAIを使う例:稲盛和夫さんの著書などをAIに読ませたら、いつでも相談できる経営の壁打ち相手になった(社長のAIの教科書)
読み違いを防ぐ確かめ方
AIは長い資料をまとめるのが得意ですが、表の数字の読み違いや、別の会社の数字との取り違えが起こることがあります。2社以上を一度に渡すときは、とくに気をつけます。
1. 期間をそろえる
決算期がちがう会社(3月決算と12月決算など)を比べると、景気の時期がずれます。表の「決算期」の行を見て、比べている期間がどれだけずれているかを知ったうえで読みます。
2. 連結か単体か(提出会社か)をそろえる
有報には、グループ全体の「連結」の数字と、その会社だけ(提出会社)の数字の両方が出てきます。たとえば従業員の平均年間給与は、ふつう提出会社の数字です。どちらの数字かを表に書かせておくと、取りちがえを防げます。
3. 大事な数字だけは原本で確かめる
AIに「何ページの何という見出しか」を書かせておけば、その場所をPDFで開くだけで確かめられます。見る数字はこれだけで十分です。
- 売上高と営業利益(連結)
- 自社の判断に使うつもりの数字(給料、セグメントの利益など)
- 主要な顧客の名前と売上高
合わないときは、「〇ページの売上高は〇〇百万円になっています。もう一度確認してください」と返せば、たいてい直してくれます。
4. 「訂正報告書」が出ていないか見る
有報は、あとから「訂正有価証券報告書」が出ることがあります。EDINETの書類簡易検索では、有価証券報告書を選ぶと訂正報告書もいっしょに検索に出ます。一覧に「訂正」の文字がないかを見ておきましょう。
使える場面
- 大きな取引を始める前に:相手の「事業等のリスク」と、主要な顧客への頼り具合を見ておく
- 競合の動きをつかみたいとき:セグメントごとの利益と、設備の計画を並べる
- 採用や給与を見直すとき:同じ地域・同じ業界の上場企業の「従業員の状況」を比べる
- 株を持っている会社を見直すとき:同じ業界の2〜3社を並べて、会社の考え方のちがいを知る
有報が出ているのは、上場企業など法律で提出が決まっている会社だけです。非上場の取引先には使えません。
よくある質問
有価証券報告書とは何ですか?
有価証券報告書(有報)は、金融商品取引法という法律で、上場企業などに提出が義務づけられている報告書です。数字に加えて、リスク・人・事業・役員・設備などがくわしく書かれています。「この会社はどんな会社か」を深く知る、他社と比べる、といった使い方に向いています。
有価証券報告書はいつ出ますか?
事業年度が終わってから3か月以内に提出されます。3月決算の会社なら、たいてい6月末までです。なお、2024年4月から四半期報告書はなくなり、期の途中では「半期報告書」が出るようになりました。
有価証券報告書はどこで見られますか?
金融庁が運営する開示書類の閲覧サイト「EDINET」で、登録なし・無料で見られます。トップページの「書類簡易検索」で会社名か証券コードを入れ、書類種別で有価証券報告書を選んで検索し、「PDF表示」で開けます。法律で決められた縦覧の期間は5年です。
決算短信と有価証券報告書はどう違いますか?
決算短信は証券取引所のルールで、期末から45日以内が目安の、数字の速報が中心の資料です。有価証券報告書は法律で決まった報告書で、期末から3か月以内に出て、数字に加えてリスク・人・事業などがくわしく載っています。「今期どうだったか」を早く知るなら決算短信、会社の中身をまとめて比べるなら有報が向いています。
有価証券報告書をAIで読み比べるときの注意点は何ですか?
AIは表の数字の読み違いや、別の会社の数字との取り違えをすることがあります。決算期のずれ、連結か提出会社か、単位(百万円・千円など)をそろえ、何ページの何という見出しにあったかを書かせておきます。売上高と営業利益など大事な数字だけは原本で確かめ、「訂正報告書」が出ていないかも見ておきましょう。
まとめ
- 有報は、期末から3か月以内に出る法定の報告書。決算短信より「会社の中身」がくわしい
- EDINETの書類簡易検索で、会社名と書類種別を入れれば無料で手に入る
- 2〜3社分のPDFをAIに渡し、「表にして」「ページを添えて」と頼む
- 期間・連結か単体か・単位をそろえ、大事な数字だけは原本で確かめる
まずは、いちばん気になる取引先と、その同業1社の有報を並べてみてください。次の商談で聞くべきことが、1つは見つかるはずです。
※ この記事は、開示資料の読み方とAIの使い方を説明するもので、特定の銘柄の売買をおすすめするものではありません。
参考
- e-Gov法令検索「金融商品取引法」(第24条 有価証券報告書の提出、第25条 縦覧)
- EDINET 閲覧サイト(金融庁)
- 金融庁「EDINET 書類閲覧 操作ガイド」
- 金融庁「金融審議会ディスクロージャーWG報告を踏まえた内閣府令改正の概要」(サステナビリティ記載欄の新設、従業員の状況の充実)
- 金融庁「令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について」(四半期報告書の廃止)
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第17号 セグメント情報等の開示に関する会計基準」
- 日本取引所グループ「東証上場会社情報サービス」
- Claude ヘルプセンター「アップロードできるファイルの種類」
- OpenAI ヘルプセンター「ChatGPTでのファイルアップロード」
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