FXでは、円高・円安という言葉をよく使います。
なんとなく意味を知っている人は多いと思いますが、この記事を読むと、円高・円安の仕組みと、為替の値動きを決める3つの要因について深く理解できるようになります。
基本に立ち戻って、ぜひ今後のFX取引にお役立てて下さい。
執筆者
山下 耕太郎
一橋大学経済学部卒業。証券会社で営業、アナリスト、ディーラー職の経験を経て、個人投資家に転身。現在は、日経225先物やオプションを中心に、株式、CFD、FXを取引している。ブログ『日経225先物オプション奮闘日誌』を運営。ツイッターアカウントは「@yanta2011」。趣味は、ウィンドサーフィン。
1.円高・円安とは
この章では、円高と円安の意味を理解し、為替変動を利用してFXで利益を得る仕組みについて解説します。
1.1.円高と円安は円の価値の上下で考える
外国為替相場で、
- 円高:円の価値が外国通貨に対して上がること
- 円安:円の価値が外国通貨に対して上がること
といいます。初心者の方は、これだけではわかりにくいですよね。
例えば、100ドルの商品を購入したとします。この時、1ドル=100円の時の購入代金は、
100ドル×100円=10,000円
です。その後、1ドル=80円になると、同じく100ドルの商品を購入するためには、
100ドル×80円=8,000円
で済みます。このように、1ドル=80円の時は、1ドル=100円の時に比べて、同じ100ドルでも商品を安く買うことができ、円の価値が上がっているという意味で「円高」といいます。
逆に、1ドル=120円になると、同じく100ドルの商品を購入するためには、
100ドル×120円=12,000円
と高くなります。このように、1ドル=120円の時は、1ドル=100円の時に比べて、同じ100ドルでも商品を高く買うことになり、円の価値が下がっているという意味で「円安」といいます。
1.2.FXで利益を得る仕組み
これを踏まえて、円高と円安をFXの取引を考えてみましょう。
為替レートは常に変動し、円高になったり円安になったりしています。FXは、そのレートの差を利用して利益(為替差益・キャピタルゲイン)を狙う投資法です。
この為替差益を得るには、次の2つの戦略があります。
- 安く買って高く売る:買い戦略
- 高く売って安く買う:売り戦略
これを説明するために、次のイメージ図をご覧下さい。

上のチャートのように、為替レートが1ドル=110円の時に、ドル円を買ったとします。それを、1ドル=120円の時に売却すれば、10円分の利益となります。
また、1ドル=120円の時に、ドル円を売るとします。それを、1ドル=110円の時に買い戻せば、同じく10円分の利益となります。
つまり、先に買うか売るかの違いだけで、どちらも同じ結果(10円分の利益)になります。
ちなみに、売り戦略の利益を狙う仕組みは、厳密には違いますが、株式取引の「空売り」と同じです。このように、FXは、為替レートが円高に動いても円安に動いても、収益の機会が得られる取引です。
2.円高・円安を決める三つの要因
ここでは、円高や円安になる要因について解説します。
結論からいうと、基本的に、円高・円安は「需給」で決まります。円の人気が上がって他の通貨から円に交換する人が多くなると(需要が多い)と円高になり、逆に、円の人気が落ちて円から他の通貨に交換する人が増える(供給が多い)と円安になります。
逆の言い方をすると、円高・円安は、ドルやユーロなど他の通貨に対して円がどのように動くかを表し、次のように言うことができます。
- 円高:ドルやユーロなどの外貨に対して円の価値が上がること
- 円安:ドルやユーロなどの外貨に対して円の価値が下がること
それでは、「通貨の人気」は、どのように決まるのでしょうか?
為替が変動する要因には様々なものがありますが、次の3つが特に重要です。
1. 内外金利差
2. 貿易収支
3. 購買力平価
一つ一つ解説していきます。
2.1.内外金利差
内外金利差とは、日本と外国の金利差のことです。お金は通常、金利が高いところに流れます。つまり、金利が高い通貨ほど人気があります。
ドル円を例にして考えてみましょう。
一般的に、米国が金利を引き上げると、日本から米国にお金が流れ、円が売られてドルが買われます(=円安ドル高)。逆に、日本が金利を引き上げると、米国から日本にお金が流れ、ドルが売られて円が買われます(=円高ドル安)。
ただし、現在の日本は低金利政策をとっているので、金利の変動はほとんどありません。そのため、ドル円レートを決めるのは、米国の金利動向が非常に重要になります。そして、その金利動向を決めるのが、「FOMC(連邦公開市場委員会)」です。
FOMCは、米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)が定期的に開く会合のことで、約6週間ごとに年8回、2日間にわたって開催されます。2日目に政策金利が発表され、FRB議長(現在はパウエル氏)の会見や声明文の発表が行われます。
このFOMCで、政策金利が引き上げられれば、ドルが人気になって価値が上がり、円安ドル高になる傾向があります。逆に、政策金利が引け下げられれば、ドルの人気がなくなって価値が下がり、円高ドル安になる傾向があります。
ちなみに、ここでは「円」と「ドル」の関係性を見ており、どちらかの価値が上がればどちらかの価値が下がります。したがって、「円安ドル安」「円高ドル高」という動きはありません。
それではここで、米国の政策金利の推移を見てみましょう。

出典:時事ドットコム
ご覧のように、ジリジリと金利が上がってることがわかりますね。今後も、米国の政策金利動向は大きな注目ポイントです。
一方、日本では、2008年のリーマンショックにより金融緩和(利下げ)が行われ、2015年末まで低金利政策が続いてきました。しかし、2015年末から「緩やかな利上げ」を開始し、断続的な利上げが続いています。
ちなみに、外為どっとコムのこちらのページには、各国の月ごとの政策金利の一覧があります。そして、2018円の政策金利は、次のように推移しています。日本がどれだけ低金利政策をとっているかをご確認下さい。

2.2.貿易収支
貿易収支とは、貿易を行った結果の収支のことです。貿易が行われると、海外とのお金のやり取りが発生します。そして、貿易収支と為替相場には関係性があります。
海外に商品を売ることを「輸出」といい、お金を受け取ります。一方、海外から商品を買うことを「輸入」といい、お金を支払います。そして、
- 「輸出額>輸入額」の場合:貿易黒字
- 「輸出額<輸入額」の場合:貿易赤字
になります。そして、貿易黒字なら通貨は高くなり(人気が集まる)、貿易赤字になると通貨は安くなる傾向にあります。
これを、日本と米国との貿易で考えてみましょう。
日本から米国への輸出が増えると、米国から受け取るドルが増え、日本ではそのドルを売って円を買うので、「円高・ドル安」の流れになります。
例えば、日本の車を米国に売ると、ドルで支払いを受けることになります。しかし、ドルのままでは国内で使うことができません。従業員に給料を払ったり、設備投資のために業者にお金を払うのにも、日本円が必要ですよね。そのため、ドルを日本円に替える必要があるのです。
貿易黒字になると日本企業は儲かって嬉しい反面、ドルを売って日本円を買うことになるので、円高になりやすくなるという仕組みです。
このように、一つ一つの経済活動の要因を丁寧に分解して考えると、円高と円安のどちらかになるのか迷うことが少なくなります。
《コラム》為替市場における旬のテーマは変化する~米中貿易摩擦について考える~
かつては、日米の貿易収支が為替レートに大きな影響を与えていました。1980~90年代はアメリカの貿易赤字と財政赤字、いわゆる「双子の赤字」が問題視されており、貿易収支の結果にマーケットは一喜一憂していました。
1985年にアメリカの対日赤字が500億ドルに達したことをきっかけに「ジャパンバッシング」が起こり、日米間の経済ほとんどの分野で摩擦が生じていたのです。
しかし、近年はリーマンショック後の景気対策として米国、EU(欧州連合)、日本で実施された金融緩和と、その出口戦略となる金融引き締めが大きなテーマとなっています。
また、最近の貿易摩擦はアメリカと中国の間で起こり、「米中貿易摩擦」と呼ばれています。そのため、米国の貿易収支が対中国に対して赤字が増えているかどうかに関心が高まっています。
米国の対中国の貿易赤字が拡大している場合は、米中貿易摩擦懸念が強まることから円高になる傾向があります。これは、「安全資産」として日本円が買われるからです。
日本は、世界で一番外貨建ての資産を保有しています。外貨建ての資産を保有しているということは、「売ることのできる外貨をたくさん持っている」ということです。そのため、「円の通貨価値が暴落することはない=安全資産」と判断されるのです。
このように、マーケットが注目し、為替相場を大きく動かすテーマは常に変わっているので、現在の相場を動かしているテーマは何なのかを把握しておくことが重要です。
2.3.購買力平価
購買力平価とは、貿易相手国の物価と比較して為替レートを計算する方法です。購買力平価は、長期的な為替の見方を表し、物価が上昇すると、その国の通貨は安く(円安)なります。
購買力平価では、「ビックマック指数」が有名です。米国とその他の国(日本)におけるマクドナルドのハンバーガー(ビックマック)の価格を比較することで、購買力価格を把握します。
例えば、ビックマック1つが米国で1ドル、日本で100円ならば、100円÷1ドル=100円となり、1ドル100円が妥当と考えます。
また、インフレ(物価の上昇)により日本でビックマックが150円に値上がりし、米国で1ドルのままなら、1ドル=150円が妥当となり、円安傾向になるという理論です。
《コラム》2019年の消費税増税の影響について考える
2019年10月に予定されている消費税の8%から10%の増税は、為替レートにどのような影響を与えると思いますか?
結論をいうと、消費税増税は、モノの値段が上がることになるので、購買力平価から考えると「円安」圧力になります。
これを実証するため、過去3回の消費税増税時のドル円相場を見てみましょう。増税直前の3月のドル円レートと、1年後の翌年3月のドル円レートを比べると、次のようになります。
| 消費税 | 増税直前(3月末) | 1年後(翌年3月末) | レートの 変化率 |
1989年4月 | 3% | 130.55円 | 153.31円 | 17%円安 |
1997年4月 | 5% | 122.76円 | 128.99円 | 5%円安 |
2014年4月 | 8% | 102.36円 | 120.37円 | 18%円安 |
このように、過去3回とも、実際に円安になっているのがわかります。
まとめ
この記事では、円高・円安の仕組みと、為替の値動きを決める次の3つの要因を解説しました。
- 内外金利差
- 貿易収支
- 購買力平価
もちろん、為替レートはこれ以外にも様々な要因で動きますが、この3つの影響が大きく、世界中の投資家が注目しています。そのため、現在の為替市場で最も注目されている要因は何かを把握することで、FXトレードを有利に行うことができます。
ちなみに、FXの情報収集の仕方やニュースの活用方法は、次の記事で詳しく解説しています。
≫ FXニュースの活用方法|利益を上げるために必要な4つのステップ
この記事が、ニュースに興味を持ってチェックする習慣を作るきっかけになれば幸いです。