スリッページとは、FXの注文において、注文した価格と実際に約定した価格の差(ズレ)のことです。相場が大きく変動した際に発生することがあり、その場合、不利なレートで約定するケースがほとんどです。
FXで成功するためには、口座選びも非常に重要で、スリッページも判断材料の一つです。
しかし、FX初心者の多くは、このような基本的な事を知らずに、適当に口座を開いてしまいがちです。
スリッページがそれほど重要でない要素なら良いのですが、実は、スリッページはFXの成否を分ける大きな要素です。
そこで、この記事を読むと、次の4つことが分かるようになります。
- スリッページとは何か
- FX会社ごとのスリッページの違いと特徴
- 2つの注意点
- 業者を選ぶことの重要性
どこのFX会社で口座を開くか迷っている方は、特に真剣にお読みいただければと思います。
執筆者
ぶせな
FXの専業トレーダー。認定テクニカルアナリスト。 本格的にFXを開始してから10年で1億6,500万円の利益を突破。著書に、『最強のFX 1分足スキャルピング』『最強のFX 15分足デイトレード』(共に、日本実業出版社)がある。ツイッターアカウントは、『@busena_fx』、ブログは『億トレーダーぶせなブログ』。
1.スリッページの基本
冒頭でもお伝えしたように、スリッページとは、注文した時点の価格と異なる価格で注文が通ってしまう(=約定する)ことです。ちなみに、スリッページが発生することを、別の言葉で「スベる」または「スリップする」と言います。
この章では、スリッページをさらに具体的に解説していきます。
1.1.スリッページのイメージ図
スリッページを、文字ではなく、図でイメージしてみましょう。

上の図のように、例えば、ドル円が100.15円の時に買い注文を入れたとします。
しかし、注文してから、約定するまでのコンマ何秒の間に価格が動いてしまい、100.16円で約定してしまいました。この0.01円(1銭=1pips)のズレのことを、スリッページと言います。
上の図の場合、買い注文を入れて、それより高い価格で約定してしまったので、不利なスリップとなります。ごく稀に有利なスリップになる時もありますが、不利なスリップほうが圧倒的に多いです。そのため、有利なスリップはほとんど発生しないと覚えておいて問題ありません。
上の例では、スリッページ1pipsで説明しましたが、トレードする度に1pipsのスリッページが発生すると、さすがにおかしいと気付くでしょう。実際には、0.1pipsなどのほんの僅かなスベリがほとんどです。これだけ小さいと、トレードしていてスベっていることに、気付きません。
また、スリッページは、エントリー時だけでなく、イグジット(決済)の時も発生します。
仮に、エントリー時に0.1pips、イグジット時に0.1pipsのスベリが発生すると、1回のトレードで0.2pipsのスリッページになります。10回のトレードなら、2pipsもの損失になります。
毎回必ずスベリが発生することはありませんが、スリッページは目に見えない損失になる、という認識はしておきましょう。
1.2.スリッページは手数料と一緒
もしかしたら、「スリッページは少なからず発生するものなのだから、気にしても仕方ない」と思われた方もいるかもしれません。しかし、それは、とんでもない誤解です。
スリッページを正しく理解していなければ、FXで勝つことは難しくなります。
なぜなら、不利なスリッページは、あなたにとっては利益を圧迫する手数料と一緒だからです。
例えば、ドル円のスプレッドが1.0銭(0.01円=1pips)だったとします。
この時、あなたは、100.11円の時に買い注文を入れました。スプレッドが1.0銭なので、1回のトレードで1pips以上の利幅を稼がなければ、利益を得られません。言い換えると、価格が100.12円以上の時に決済する必要があります。
しかし、この時、同時にスリッページが発生して、100.11円で買い注文を出したのに、1銭高い100.12円で約定してしまったらどうでしょうか?
この場合、元々スプレッドが1銭発生していて、スリッページさらに1銭不利な価格で約定してしまったので、あなたがトレードで勝つには、2銭(=2pips)以上の利幅を取らなければ負けになってしまいます。
整理してみましょう。

私の場合は、ドル円のスプレッドは0.3銭(=0.3pips)のFX会社が多く、スリッページがほとんど発生しない口座で取引をしているので、実際のコストは微々たるものです。
ただし、FXのコストに関する理解が足りずに、スプレッドが広くてスリッページが発生しやすい口座でトレードしてしまっている初心者もいるかもしれません。
つまり、スプレッドとスリッページをしっかりと理解していないと、気付かないうちに、不利な条件でトレードをしてしまうことになるのです。
このことが、初心者がFXで勝つことができない大きな理由の1つです。
スキャルピングやデイトレードは、小さな利益を積み重ねて、資産を大きく増やしていく手法です。そのため、勝てる可能性を広げるために、1回のトレードのコスト(スプレッドとスリッページ)を極限まで小さくする必要があります。
これからFX取引をしていくにあたり、回数は多くこなしたいですよね。毎日たくさんトレードをして、たくさんの利益を積み上げていく、そんなトレード生活が理想ではないでしょうか?
そのためにも、1回のトレードのコストは徹底的に下げる必要があります。
このことを説明するために、私のスキャルピングの実際のトレード履歴をご覧下さい。

よくご覧いただくと、基本的に、数千円単位の取引を何度も行ない、小さな利益を積み重ねて、トータルで利益を出していることがお分かりいただけると思います。
繰り返しになりますが、FXで爆発的に資産を増やしていくには、どうしても取引回数が多くなります。そのため、1回1回の取引のコストを徹底的に下げることが重要です。
さらに、経済指標発表時や要人発言などの相場急変時には、一瞬で上下どちらかに大きくレートが動くので、想像以上に大きなスリッページが発生します。私が経験した中では、スリッページで10pipsなんてこともありました(10pipsは滅多にないので、ご安心下さい)。
もし、このようなスリッページが発生しやすいタイミングでトレードすると、そのコストは大きな負担になります。
いずれにせよ、スキャルピングは、取引を繰り返して利益を積み重ねることによって資産を築いていく手法です。そのため、スリッページが頻繁に発生してしまうと、利益が圧縮され、非常に大きなストレスになります。
1.3.スリッページが発生する原因
では、そもそも、スリッページが発生する原因は何でしょうか?
結論をいうと、FX会社のシステム面の影響が大きいです。
FXは、日本だけでも何百万もの人が取引しており、パソコンやスマホで注文を出しています。そして、FX会社のシステムには常に大きな負荷が掛かっています。そのため、スリッページが全く発生しないというのは技術的に難しく、多少のスリッページは、仕方ないと考えるべきです。
また、FX会社はスリッページが極力発生しないようにシステム増強に努めていますが、システム処理の速度は各社で違い、スリッページの頻度やスベリ具合も各社で異なります。
だからこそ、口座開設をする際は、どこの業者にするか真剣に考える必要があるのです。
2.スリッページが少ない口座を選ぶことが重要
繰り返しになりますが、スリッページはFX会社によって異なります。なぜなら、その会社の取引システムの処理能力やサーバーの充実度が違うからです。
そのため、勝つためには、スリッページが少ないFX会社を選ばなければいけません。特に、小さな利幅をどんどん積み重ねていくスキャルピングでは、命綱です。
以下の表は、私が使っているFX5社のスリッページ発生率をまとめたものです。ちなみに、備考に「指定スリッページ幅」とありますが、これは、スリッページをどこまで許容するかを発注ツール上から指定するものです。
|
スリッページ発生率 |
不利スリップ発生率 |
備考 |
ヒロセ通商 |
13.9% |
49.7% |
指定スリッページ幅1.00銭での計測 |
JFX |
6.9% |
41.2% |
指定スリッページ幅1.00銭での計測 |
SBI FXトレード |
19% |
42% |
指定スリッページ幅1.00銭での計測 |
トレイダーズ証券 |
非公開 |
非公開 |
– |
外為どっとコム |
非公開 |
非公開 |
– |
ご覧のように、スリッページ発生率や不利スリップ発生率を公表していない会社もあります。そもそも、FX会社には開示する義務はありません。
その中で、ヒロセ通商とJFXとSBI FXトレードはスリッページの発生状況を開示しているので、システムに自信を持っている証拠の表れだと思っており、実際の使用感も良好です。
なお、スリッページ以外のFX口座を選ぶ際のポイントは、『FX口座のおすすめ|初心者に絶対知ってほしい6社の徹底比較』で詳しく解説していますので、参考にして下さい。
余談になりますが、過去には、FX会社が自社で利益を得るために、トレーダーが不利になるようなスリッページの設定にしていたと言われた時代もありました。つまり、以前はFX会社が有利で、トレーダーが不利になるという構図が露骨だったということです。これは、今ではだいぶ解消されました。
3.スリッページに関する2つの注意点
ここまで、あなたがこれからFXで勝つために必要なスリッページの知識はお伝えしてきました。
最後に、スリッページの誤解されがちな注意点について、2つお伝えします。
3.1.約定率とスリッページ発生率は違う
FX会社のホームページで、「約定力99.9%」などと書かれていることがありますが、それは単に出した注文が拒否されない率であって、スリッページが発生しない確率を表したものではありません。
スキャルピングやデイトレードにとって重要なのは、約定率よりも、むしろスリッページ発生率だと私は考えています。
そもそも、約定率が悪い会社は論外で、約定でストレスを感じる業者は使わない方が賢明です。実質的には、目に見えず、自分でも気付かない部分のスリッページが、業者の良し悪しを左右するのではないかと考えています。
3.2.スイングトレードではスリッページ発生率の重要度は低い
スイングトレードは、数日から長い時で数ヶ月、ポジションを保有し続けるトレードです。そのため、トレード1回当たりの利幅も、スキャルピングやデイトレードと比べて非常に大きいのが特徴です。
仮に、スイングトレードでスリッページが発生しても、利幅や損切り幅に占めるスリッページの割合は少ないです。そのため、スイングトレードなら、そこまで神経質にスプレッドやスリッページを気にする必要はありません。
しかし、将来的にFXで勝ち続けらるようになったら、あなたもガンガン注文するようになるでしょう。そして、資産を増やすスピードをさらに早めるために、例えば、スイングトレード以外にスキャルピングもするようになるかもしれません。
その時に、スリッページ発生率が多いFX口座だと、思ったように稼げない上、大きなストレスになります。そのため、最初からスキャルピングやデイトレードにも適したFX会社で口座を開いておくことをおすすめします。
4.勝ちやすい業者を選ぶこと
FX初心者の方は、スリッページに関する理解が足りていないばかりに、自分にとって不利な口座で取引を始める方が多いです。それが、初心者が勝てない大きな理由の1つです。
FXの勝ち組トレーダーの中で、適当に口座を選んで勝てている人は皆無です。皆、勝つために必要なことを徹底的に調べて、少しでも有利な条件でトレードできるように取り組んでいます。
スリッページは、あくまでも、注文した時の体感でしか測ることができないので、口座開設前に判断できません。一方、スプレッドだと、ドル円は0.3pipsより大きいか小さいかなど、各社を数字で比較することができます。
スリッページは、実際に使ってみるしか、判断のしようがありません。
しかし、これからトレードしていく上で、この目に見えない部分の判断が、コストに関して非常に重要になってきます。まずは、私が使っている何社かを開設し、実際に使ってみることをおすすめします。
自分のトレードスタイルに合ったFX口座を使い、コストを最大限下げることが、勝てるトレーダーになるための第一歩です。
ぜひ、真剣に取り組んで下さい。