第5章 続ける 5-5・読む時間 約6分・最終更新 2026年10月28日
投資信託の取り崩し方|定額と定率のちがいと、NISA・課税口座・iDeCoを使う順番


「貯めるところまでは分かった。でも、いざ使うときには、どうやって売ればいいのだろう」。「退職したら、全部売って預金に移すのが正解なのか」。そう考えたことはありませんか。
答えは意外とシンプルです。使うときも、一度に全部売る必要はありません。使う分だけ少しずつ売り、残りは運用を続ける。それが基本です。この回では、取り崩し方の2つの型と、NISA・課税口座・iDeCoをどの順番で使うかの考え方を見ていきます。
前の回(はじめての人のよくある失敗)では、つまずきやすいところと防ぎ方を見ました。この回は、続けてきたお金を「使う」ときの話です。
この回でわかること
- 一度に全部売らず、使う分だけ少しずつ取り崩す考え方
- 定額(毎回同じ金額)と定率(残高の一定の割合)のちがいと、計算例の読み方
- NISA・課税口座・iDeCoを使う順番の考え方と、税金の扱い
結論
- 使うときも、一度に全部売らなくてよい。使う分だけ少しずつ売り、残りは運用を続ける。売る時期を分けることで、下がったときにまとめて売ることを避けられる
- 定額は受け取る額が決まって暮らしの計画を立てやすいが、残高は早く減りやすい。定率は残高が減りにくいが、受け取る額が毎年変わる
- NISAで売った利益には税金がかからない。課税口座は利益に20.315%。iDeCoは原則60歳まで引き出せず、年金なら公的年金等控除、一時金なら退職所得控除の対象になる
一度に全部売らなくてよい
退職などを機に、貯めた投資信託を全部売って預金に移したくなるかもしれません。ただ、一度に全部売ると、2つのことが起きます。
1つめは、売った日の値段で、すべてが決まってしまうことです。たまたま大きく下がっていた時期なら、下がった値段で全部を売ることになります。
2つめは、残りのお金が増える機会がなくなることです。複利と時間で見たように、運用を続けている間は、増えた分がまた増えます。使うのが10年先、20年先のお金なら、その間も運用を続けられます。
長期・積立・分散で、買う時期を分ける「積立」を学びました。取り崩しは、その逆です。**売る時期を分けて、少しずつ使う。**こうすると、下がったときにまとめて売ることを避けられます。
もう一つの工夫として、この先1〜2年で使う分を、あらかじめ預金に移しておく考え方があります。大きく下がった年は、その預金から使い、投資信託は売らずに待てます。どのくらいを預金にしておくかは、暮らし方によって変わります。
取り崩し方は主に2つ:定額と定率
少しずつ売るやり方は、大きく2つに分けられます。
- 定額:毎月・毎年、同じ金額を取り崩す。たとえば「毎月5万円」
- 定率:残高の一定の割合を取り崩す。たとえば「残高の4%を毎年」
計算例(仮の前提)
ここでは仮に、次の前提で計算してみます。
- 1,000万円を取り崩し始める
- 毎年ちょうど年3%で増える(実際の投資では、毎年同じように増えることはありません)
- 取り崩しは年の初めに1年分をまとめて行い、残りが1年で3%増える
- 手数料と税金は計算に入れない
定額で年60万円(毎月5万円にあたる)を取り崩すと、残高は次のように減っていきます。1,000万円が尽きるのは23年目で、23年目に取り崩せるのは約29万円です。もし運用せずに預金だけで同じように取り崩すと、17年目の途中で尽きます。
定率で毎年、残高の4%を取り崩すと、1年目に受け取るのは40万円、10年目は約36万円、20年目は約32万円と、少しずつ減っていきます。そのかわり、残高はゆっくりしか減りません。
残高の動きをくらべる
2つの残高の動きを並べると、次のようになります。
| 開始 | 5年後 | 10年後 | 15年後 | 20年後 | 25年後 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 定額(年60万円)の残高 | 1,000万円 | 約831万円 | 約635万円 | 約409万円 | 約146万円 | 0円 |
| 定率(残高の4%)の残高 | 1,000万円 | 約945万円 | 約893万円 | 約845万円 | 約798万円 | 約755万円 |
この表は、毎年ちょうど3%で増えるとした場合の計算です。実際の値動きは毎年ばらつき、マイナスの年もあります。将来どうなるかを示すものではありません。
それぞれの向き・不向き
- 定額は、毎月いくら受け取れるかが決まっているので、暮らしの計画を立てやすいのが良いところです。一方で、値段が下がっている時期にも同じ金額を売るので、売る口数が増え、残高が早く減りやすくなります
- 定率は、残高に合わせて受け取る額が変わるので、お金がなくなりにくいのが良いところです。一方で、値段が下がった年は受け取る額も減り、暮らしの計画は立てにくくなります
どちらが正しいということはありません。「年金で足りない分を、毎月決まった額で補いたい」なら定額、「できるだけ長く残したい」なら定率、と目的で選びます。はじめは定額で取り崩し、残高が減ってきたら定率に切り替える、という組み合わせ方もあります。
証券会社によっては、決まった日に投資信託を自動で売る「定期売却」のしくみを用意しているところもあります。使えるかどうかや、指定のしかたは各社の案内で確かめてください。
売る順番の考え方
NISA、課税口座(NISAの外の口座)、iDeCoなど、お金が複数の口座に分かれている人は、どこから使うかも考えます。口座ごとに、税金のかかり方が違うからです。考え方の一つは、取り崩し用に移しておいた預金、課税口座、NISAの順に使うことです。
NISA:売っても利益に税金がかからない
NISAの口座で持つ株や投資信託を売って得た利益には、税金がかかりません。売った分の枠は翌年以降に、買ったときの金額で戻ります(NISAのしくみ)。また、NISAで持っている間に増えた分にも、税金はかかりません。
そのため、NISAの分はなるべくあとに残し、長く非課税で運用を続ける、という考え方があります。
なお、NISAの中で出た損は、ほかの口座の利益と相殺できません。
課税口座:利益に20.315%の税金がかかる
課税口座で利益が出ているものを売ると、利益に20.315%(所得税15%・住民税5%に、復興特別所得税が加わります)の税金がかかります。かかるのは「利益」の部分だけで、売った金額の全部ではありません。
NISAと課税口座の両方で持っているなら、課税口座から先に使い、NISAをあとに残すのが、考え方として分かりやすい順番です。ただし、どちらが有利になるかは、課税口座の利益の大きさなどで変わります。
iDeCo:原則60歳まで引き出せない。受け取り方で税金の扱いが変わる
iDeCoのお金は、原則として60歳以降の受け取れる年齢になるまで引き出せません。受け取り方は、年金として受け取るか、一時金として受け取るかを選べます。金融機関によっては、両方を組み合わせることもできます。
- 年金として受け取る:公的年金等控除の対象
- 一時金として受け取る:退職所得控除の対象。iDeCoの場合、控除の額は、掛金を出した月数で決まります
どちらが有利かは、退職金や公的年金の額、受け取る時期によって変わります。受け取る前に、金融機関や税務署の案内で確かめてください。iDeCoのしくみはiDeCoとのちがいにまとめています。
値動きの大きいものと小さいもの、どちらから使うか
株が大きく下がっているときは、下がった株の投資信託を売らずに、預金など値動きの小さいほうから使います。反対に、株が大きく上がったときは、株のほうから使うと、配分も元の割合に近づきます。これはリバランスと見直しの考え方と同じです。
よくある質問
取り崩しは、何歳から始めればいいですか?
決まった年齢はありません。収入が減って、年金などで足りない分が出てきたときが、取り崩しを始める目安です。必要な分だけを取り崩し、使わない分は運用を続けます。
NISAで取り崩したお金は、確定申告が要りますか?
NISAの口座で売って得た利益には、税金がかかりません。税金のかからない利益なので、その分を申告して納める必要はありません。
定額と定率、計算例の数字のとおりになりますか?
なりません。計算例は、毎年ちょうど3%で増えるとした仮の数字です。実際は年ごとに値動きがばらつき、取り崩す時期に下がっていれば、残高はもっと早く減ります。毎年の点検で残高を見て、取り崩す額を見直すことが大切です。
第2部「NISAで始める」はここまでです。始め方から、続け方、使い方までがそろいました。次の第3部では、個別の会社の株や、相場のニュースの読み方に進みます。まずは「株とは何か」からです(株とは何か:株価が動くしくみ)。
出典:金融庁「NISAを知る」、国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」、国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」、iDeCo公式サイト「iDeCoのメリット」、iDeCo公式サイト「よくあるご質問」(いずれも2026年10月28日確認)。この回の計算例は、仮に年3%で毎年同じように増えるとした場合の試算です(手数料・税金は含みません)。実際の投資の結果を示すものではありません。制度は変わることがあります。最新の内容は金融庁・国税庁・iDeCo公式サイトと金融機関の案内をご確認ください。
この回のまとめ
- 使うときも、一度に全部売らなくてよい。使う分だけ少しずつ売り、残りは運用を続ける。売る時期を分けることで、下がったときにまとめて売ることを避けられる
- 定額は受け取る額が決まって暮らしの計画を立てやすいが、残高は早く減りやすい。定率は残高が減りにくいが、受け取る額が毎年変わる
- NISAで売った利益には税金がかからない。課税口座は利益に20.315%。iDeCoは原則60歳まで引き出せず、年金なら公的年金等控除、一時金なら退職所得控除の対象になる
確かめ問題
Q1. 「定率」の取り崩しとは、どんな取り崩し方ですか?
答えを見る
残高の一定の割合(たとえば4%)を取り崩す方法
残高が減れば受け取る額も減るので、お金はなくなりにくい一方、毎年受け取る額が変わります。
Q2. NISAの口座で値上がりした投資信託を売ったとき、利益に税金はかかりますか?
答えを見る
かからない
NISAの口座で持つ株や投資信託を売って得た利益は、非課税です。課税口座なら、利益に20.315%の税金がかかります。
Q3. iDeCoのお金を一時金で受け取るとき、対象になる控除は何ですか?
答えを見る
退職所得控除
一時金は退職所得控除、年金として受け取るときは公的年金等控除の対象になります(iDeCo公式サイト)。